物理学を勉強していると、解法が変数分離法である偏微分方程式に良く出会う。
例えば1次元空間の時間依存するシュレーディンガー方程式は
$$i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\Psi(x,t)=\left\{-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2}+V(x,t)\right\}\Psi(x,t)\tag{1}$$
であり、変数分離を仮定することで解くことができる(仮定しない場合でも解ける)。他にもマクスウェル方程式を連立して得られる電磁波を表す波動方程式や、熱拡散方程式も、変数分離を用いて解を導く偏微分方程式の典型例だ。私はこのような偏微分方程式に出会うたびに思う。
「変数分離を仮定して偏微分方程式の解が得られても、変数分離を仮定できる理由が分からないから腑に落ちない…。」
もしこの記事を読んでいる君も同じ気持ちなのだとしたら、少しでもこの後の話が君にとって有益であることを願っている。本記事では、シュレーディンガー方程式が変数分離を仮定できる理由について筆者が考えたことを記す。
フーリエ解析の観点からの考察
任意の1変数関数f(x)は以下のようにフーリエ変換できることが知られている。
$$F(\omega)=\int^{\infty}_{-\infty}f(x)e^{-i\omega x}dx\tag{2}$$
$$f(x)=\frac{1}{2\pi}\int^{\infty}_{-\infty}F(\omega)e^{i\omega t}d\omega\tag{3}$$
ここで\(F(\omega)\)は角周波数\(\omega\)の波の項の係数で、\(e^{i\omega t}\)が角周波数\(\omega\)の振動の項であると考えられる。これは1変数についてのフーリエ変換だが、例えば2変数関数に対して、2変数でそれぞれ(つまり2回)フーリエ変換を行うとどうなるだろうか。たとえば、以下の式のようになるのだろうか。
$$F_x(\omega_x,y)=\int^{\infty}_{\infty} f(x,y)e^{-i\omega_x x}dx\tag{4}$$
$$F_y(x,\omega_y)=\int^{\infty}_{\infty}f(x,y)e^{-i\omega_y y}dx\tag{5}$$
$$F_{xy}(\omega_x,\omega_y)=\int^{\infty}_{\infty}\int^{\infty}_{\infty}f(x,y)e^{-i(\omega_x x+\omega_y y)}dxdy\tag{6}$$
$$f(x,y)=\frac{1}{(2\pi)^2}\int^{\infty}_{\infty}\int^{\infty}_{\infty}F(\omega_x,\omega_y)e^{i(\omega_x x+\omega_y y)}d\omega_x d\omega_y\tag{7}$$
もし(6)式のフーリエ変換の逆変換の式が(7)式で与えられるなら、\(f(x,y)\)の各項は\(e^{\omega_x x}\)と\(e^{\omega_y y}\)の積で表せる。微分方程式は重ね合わせの原理があるので、各項が偏微分方程式の解であると考えるのなら、変数分離が可能になる。さらに言えば、変数分離と、ポテンシャル\(V(x,t)\)が定数であるという仮定をすれば(7)の被積分関数の各項が算出される。つまり、波動関数がフーリエ級数展開できることと、変数分離を仮定してシュレーディンガー方程式を解けること必要十分の関係であると考えられるのである。
実際に(7)のように波動関数\(\Psi(x,t)\)が2変数でフーリエ級数展開できると仮定し、(1)式について考えてみよう。波動関数\(\Psi(x,t)\)は以下のように書ける。
$$\Psi(x,t)=\frac{1}{(2\pi)^2}\int^{\infty}_{\infty}\int^{\infty}_{\infty}\psi(\omega_x,\omega_t)e^{i(\omega_x x+\omega_t t)}d\omega_x d\omega_t\tag{8}$$
$$\psi(\omega_x,\omega_t)=\int^{\infty}_{\infty}\int^{\infty}_{\infty}\Psi(x,t)e^{-i(\omega_x x+\omega_t t)}dxdt\tag{9}$$
これを(1)の左辺(Left-Hand Side: LHS)に代入すると、
$$
\begin{align}
LHS&=i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\Psi(x,t)\tag{10}\\\\
&=i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\frac{1}{(2\pi)^2}\int^{\infty}_{\infty}\int^{\infty}_{\infty}\psi(\omega_x,\omega_t)e^{i(\omega_x x+\omega_t t)}d\omega_x d\omega_t\tag{11}\\\\
&=i\hbar\frac{1}{(2\pi)^2}\int^{\infty}_{\infty}\int^{\infty}_{\infty}(i\omega_t)\cdot\psi(\omega_x,\omega_t)e^{i(\omega_x x+\omega_t t)}d\omega_x d\omega_t\tag{12}\\\\
&=\frac{1}{(2\pi)^2}\int^{\infty}_{\infty}\int^{\infty}_{\infty}(-\hbar\omega_t)\cdot\psi(\omega_x,\omega_t)e^{i(\omega_x x+\omega_t t)}d\omega_x d\omega_t\tag{13}
\end{align}
$$
一方(1)の右辺(Right-Hand Side: RHS)は
$$
\begin{align}
RHS&=\left\{-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2}+V(x,t)\right\}\Psi(x,t)\tag{14}\\\\
&=\left\{-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2}+V(x,t)\right\}\frac{1}{(2\pi)^2}\int^{\infty}_{\infty}\int^{\infty}_{\infty}\psi(\omega_x,\omega_t)e^{i(\omega_x x+\omega_t t)}d\omega_x d\omega_t\tag{15}\\\\
&=\frac{1}{(2\pi)^2}\int^{\infty}_{\infty}\int^{\infty}_{\infty}\left\{-\frac{\hbar^2}{2m}(i\omega_x^2)+V(x,t)\right\}\psi(\omega_x,\omega_t)e^{i(\omega_x x+\omega_t t)}d\omega_x d\omega_t\tag{16}\\\\
&=\frac{1}{(2\pi)^2}\int^{\infty}_{\infty}\int^{\infty}_{\infty}\left\{\frac{\hbar^2}{2m}\omega_x^2+V(x,t)\right\}\psi(\omega_x,\omega_t)e^{i(\omega_x x+\omega_t t)}d\omega_x d\omega_t\tag{17}
\end{align}
$$
両辺の被積分関数の係数を比べると、
$$
\begin{align}
-\hbar\omega_t=\frac{\hbar^2}{2m}\omega_x^2+V(x,t)\tag{18}
\end{align}
$$
が得られる。つまり、(18)式を満たす周波数の組\((\omega_x,\omega_t)\)の項は、シュレーディンガー方程式の解であることがわかる。逆に言えば、(18)式を満たさない周波数の組の項には変数分離を適応して解くことができない。では(18)式は物理的な意味を持っていて、周波数の組に対して正当な制限をかけていると言えるのだろうか。ということで次は(18)が物理的に意味について議論していく。
ド・ブロイ波(物質波)の考え方
量子力学ではすべての物質は粒子であり波でもあると考える。波としての物質をド・ブロイ波(物質波)という。
粒子の運動は波の伝搬と考えることができる。さて、ここで高校物理で習った正弦波の式を思い出してみよう。
$$
\begin{align}
f(x,t)&=A\sin(2\pi\frac{x}{\lambda}-2\pi\frac{t}{T})\tag{19}\\\\
&=A\sin(\frac{2\pi}{\lambda}x-\omega t)\tag{20}
\end{align}
$$
ここで\(x\)の項と\(t\)の項の符号が逆になっている理由を簡単に言うと、空間だけ動かすと観測点が波の進行方向に進むのに対して時間だけ動かすと波本体が進んでいくため波全体で見ると観測点は進行方向と逆に進むからである。
さて、(20)式を(18)式に代入すると、
$$
\begin{align}
-\hbar(-\omega)&=\frac{\hbar^2}{2m}(\frac{2\pi}{\lambda})^2+V(x,t)\tag{21}\\\\
\hbar\omega&=\frac{1}{2m}(\frac{h}{\lambda})^2+V(x,t)\tag{22}
\end{align}
$$
ここでアインシュタインの光量子仮説、ド・ブロイの仮説より
$$
\begin{align}
E=h\nu\tag{23}\\\\
p=\frac{h}{\lambda}\tag{24}
\end{align}
$$
(23)、(24)式を(22)式のLHS、RHSにそれぞれ代入すると、
$$
\begin{align}
LHS&=\hbar\omega\\\\
&=frac{h}{2\pi}\frac{2\pi}{T}\\\\
&=h\frac{1}{T}\\\\
&=h\nu\\\\
&=E\tag{25}\\\\
RHS&=\frac{1}{2m}(\frac{h}{\lambda})^2+V(x,t)\\\\
&=\frac{1}{2m}p^2+V(x,t)\tag{26}
\end{align}
$$
以上より、(18)式は
$$E=\frac{p^2}{2m}+V(x,t)\tag{27}$$
となるため、エネルギー保存則を表していることがわかる。この式を満たさない周波数\(\omega_x,\omega_t\)の組の項で表された粒子は(27)式を満たさない。つまり、エネルギー保存則を見てしている粒子のみを考えるなら、ただちに変数分離を仮定しても良いのではないかと思われる。しかし、\(V(x,t)\)が一定でないときはフーリエモードの時空間上の座標によって変化していくことが考えられる。その場合はeの指数部分に時空間に依存する実関数が現れることが容易に予測できる。逆に言えば、eの指数が一定で表せるのはポテンシャル\(V(x,t)\)が一定のときだけだと言える。
さらに
$$
\begin{align}
i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\Psi(x,t)=E\Psi(x,t)\tag{28}\\\\
-i\hbar\frac{\partial}{\partial x}\Psi(x,t)=p\Psi(x,t)\tag{29}
\end{align}
$$
を満たすように指数を考えると
$$e^{i(\omega_x x+\omega_t t)}=e^{\frac{i}{\hbar}(px-\omega t)}\tag{30}$$
はエネルギー\(E=-h\omega_t\)、運動量\(p=\hbar\omega_x\)をもつ粒子を表している。
三次元空間の時間依存するシュレーディンガー方程式に拡張
ここまでは1次元空間の時間依存するシュレーディンガー方程式を考えてきた。次は空間を3次元に拡張したシュレーディンガー方程式
$$i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\Psi(x,y,z,t)=\left\{-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2+V(x,y,z,t) \right\}\Psi(x,y,z,t)\tag{31}$$
を考慮する。このとき波動関数は4変数関数であり、1次元空間上に分布する場合と同様に4変数でそれぞれフーリエ変換できると仮定する。
$$\psi(\omega_x,\omega_y,\omega_z,\omega_t)=\int^{\infty}_{\infty}\int^{\infty}_{\infty}\int^{\infty}_{\infty}\int^{\infty}_{\infty}\Psi(x,y,z,t)e^{-i(\omega_x x+\omega_y y+\omega_z z+\omega_t t)}dxdydzdt\tag{32}$$
$$\Psi(x,y)=\frac{1}{(2\pi)^4}\int^{\infty}_{\infty}\int^{\infty}_{\infty}\int^{\infty}_{\infty}\int^{\infty}_{\infty}F(\omega_x,\omega_y,\omega_z,\omega_t)e^{i(\omega_x x+\omega_y y+\omega_z z+\omega_t t)}d\omega_x d\omega_yd\omega_zd\omega_t\tag{33}$$
(33)式の各項は変数分離形になっており、これを(31)式に代入し、1次元空間の時間依存するシュレーディンガー方程式と場合と同様に計算すると
$$E=\frac{\vec{p}^2}{2m}+V(x,y,z,t)\tag{34}$$
が得られる。
まとめ
①時間に依存するシュレーディンガー方程式の解である波動関数は2つ以上の変数からなっており、すべての変数でフーリエ級数展開ができると仮定すると変数分離ができる。
逆に、時間に依存するシュレーディンガー方程式に変数分離を仮定して解いた解の重ね合わせはとフーリエ級数展開の式になる。
→波動関数がフーリエ級数展開できることと、時間に依存するシュレーディンガー方程式に変数分離を仮定できることは必要十分(同値)である
②光量子仮説の式や、ド・ブロイの関係式を用いて計算するとエネルギー保存則の式が現れた。
→シュレーディンガー方程式はエネルギー保存則に対応している。
③ポテンシャル\(V\)が一定でないときはエネルギー保存則の式は時空間に依存して移り変わっていくため、フーリエモードの係数は時空間に依存し変化していく。
→ポテンシャルが時空間に依存している場合は依存している変数についての実関数が波動関数のeの指数の肩につく。
④シュレーディンガー方程式以外の拡散方程式や、電磁場の式も、シュレーディンガー方程式と同様に変数分離を仮定して計算すれば物理的意味のある式が出てくるのかもしれないが、本記事では述べないことにする。(近い未来にやるかも)
結論:時間に依存するシュレーディンガー方程式は、ポテンシャルが一定の値をとる領域において変数分離を仮定して解いて良いと考えられる。
最後に
今回は時間に依存するシュレーディンガー方程式で変数分離ができる理由について筆者の考えを述べたがいかがだっただろうか。
分からないところがありましたらぜひ、コメントよろしくお願いします。
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